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【別居婚】夫婦って「一つ屋根の下」で住まなければならないの?《マンガ&随筆「異種」ワンテーマ格闘コラム》Vol.15

【連載マンガvsコラム】期待しないでいいですか?Vol.15

◼︎妹・吉田潮は【別居婚】をどうコラムに書いたのか⁉️

 

 2011年に3度目の結婚をして、約10年になる。静岡と東京で別居婚だ。夫は家業を継いで、静岡に両親と同居。私は東京で猫と暮らしている。仕事を減らして静岡の家業を手伝う選択肢もあったが、商売が順調ではないこともあって却下。夫は夫で貯金をはたいて家業の立て直しを図り、私は私でマンションのローンも抱えていたので東京で稼ぐことにした。住居も生活も家計も別々、正統派「別居婚」だ。

 初めの頃、別居婚というと「なんで結婚したの?」と聞かれた。「好きだから」と答えると、「一緒に住まないなら結婚する意味、なくね?」と言われた。確かに結婚しなくても恋人のままでよかったのではないかとも思う。それでも婚姻関係を結んだのは、お互い相手に対して責任をもつ覚悟でもある。経済的に、または精神的に疲弊したときは助けあえるよう、共助の関係だ。

 ま、ぶっちゃけ入籍したのは不妊治療のため、でもある。体外受精を受けるには配偶者であることが必須だったため、急遽、速攻、入籍。結婚式も披露宴もパーティーもやっていない。そして私は生まれて初めて名字が変わった。

 結婚直後は「ひとりで寂しくないの?」と聞かれることが多かったが、この10年で驚くほど反応が変わった。別居婚だと伝えると、独身も既婚者も皆口をそろえて「うらやましい!」「理想の形だよね」と言う。「結婚したらこうしなければいけない」という思い込みがかなり払拭されてきたようだ。「式を挙げ、名字を変え、仕事をやめ、夫の家に嫁ぎ、家事育児をして、家庭を守る」が当たり前だった時代はとっくに終わった。結婚にもさまざまなスタイルがあり、双方の希望と合意の上になりたつ形であれば、何の問題もないのだから。

 ときどき、面倒くさいおっさんが「民法第752条に反している」みたいなことを言ってくるときがある。

【同居・協力・扶養義務】夫婦は同居し、互に協力し扶助しなければならない。
ということらしいが、私たちはお互いが望んでそうしているので、違反ではない。つうか、うっせーうっせーうっせーわ。

 昭和初期生まれの親たちはいろいろと思うところがあるかもしれないが、親の願いや気持ちや体裁よりも、私たち夫婦がうまくいく関係性のほうが大事。周囲や外野の人間が何を言おうと気にしないし、実際、親も私たちのスタイルを尊重してくれている。あ、私の父だけは認知症になってから「あいつは嫁いだのに静岡に行かず、家業も継がないで、遊んでばかりいて!」と密かに怒っていたらしいが、認知症で翌日には忘れているから気にしない。

 別居婚のメリットはなんといっても「個の尊重」。お互いの24時間をまったく邪魔しない。そして「恋しさの存続」。会いたいなぁと思う気持ちが常に湧いていて、枯れることがない。西野カナのように会いたくて震えることはさすがにないが、郷ひろみのように会えない時間が愛育てる気分だ。今はコロナもあって、年に1~2回しか会わない。ただし、ほぼ毎日Skypeで顔を見て話をしている。なんのこっちゃない天気の話、親の健康状態の話、台湾ドラマの話、筋トレや鍼の話などなど。同じ家に住んでいながら一言も話さない夫婦や、目が合えば喧嘩になる夫婦よりは100倍健全で幸福である。

 デメリットを考えたのだが、「ムラムラしたときに気軽に解消できない」くらいで、他が出てこない。もうこの年になれば、ムラムラの頻度も著しく低下したし、自己処理も得意だから。パソコン接続だ、家具移動だ、DIYだのも自分でできるし、夫に頼らなければいけないことが実はない。夫も同様、自分でなんでもできるので、私を必要とするシーンはほぼないと思う。生活費は結果的にW出費だが、今のところ無駄ではない。いや、そもそも生計も別なので、家計の収支状況もよく知らん。

 そうそう、災害時は心配だ。遠方だと安否確認も難しい。そこは宿命と割り切るしかない。東京の私はともかく、夫が住むのは静岡の海っぺりなので、とにかく「岡へ逃げろ」とだけ伝えている。

 SkypeにLINEがあれば遠くにいても顔を見ながら話もできるし、買い物も作業代行もポチッと頼めるこの令和の時代、別居婚がスタンダードになってもおかしくはない。こうなったら「別居婚推進委員会」でも作ろうかと思うのだが、別居婚がうまくいくためには3つの条件がある(と思う)。

 まずひとつめ。「健康」だ。お互いが健康であることは必須。健康な人間の傲慢かもしれないが、やはり心身に不安のある人は同居して助け合うほうがいい。

 ふたつめ。「小さい子供がいない」こと。これは「子供は父と母が一緒に育てるべき」という説教臭い意味ではない。子育てはたぶん共闘体制で、父とか母とか男とか女とか関係なく、人手は多いほどいい。単純な数の問題だ。手のかかる子供がいるうちは同居して徒党を組んだほうがよかろう。

 そして、3つめ。「相手が二番手」であること。実は「お互いに好きだが、それ以上に自分が好き」な人のほうが別居婚に向いている気がする。夫も私も、相手より自分が好き。確か90年代には「二番目に好きな人と結婚するくらいがちょうどいい」なんて言われていた。文言としては正解だが、意味がちょっと違う。まずは自分の仕事や生き方が一番好きで、二番目に配偶者が好き。お互いが自分ファーストというのはワガママと思うかもしれないが、自分の好きを貫くにはそれ相応の覚悟と責任が必要。自立して依存しないこと、相手の信用を得ること。そうすれば二番手である配偶者を大切に思える。「一番じゃなきゃダメなんですか? 二番じゃダメなんですか?」ということで「蓮舫式」とでも呼ぼう。

 というのも、相手を好きになりすぎて自分を捨てたり、個性を殺してしまう人が結構いる。仕事のキャリアも趣味も感性もセンスも、結婚するために捨てたり、我慢したり。いつか必ずその後悔が、むっくりと目を覚ます。「こんなに自分は我慢したのに」「こんなに好きなのに相手は応えてくれない」という恨み節になるからな。

 不向きも確実にある。「配偶者がいないと何もできない依存傾向の強い人」あるいは「配偶者を支配・束縛したい人」は別居婚に向かない。配偶者の行動や予定をいちいち把握しないと気が済まない人は、そもそも別居婚に興味がないだろうけれど。

 お互いに別居婚が向いているが、老後というか近い将来、一緒に暮らすことを楽しみにしている。現在、夫55歳、私49歳。今後の仕事と健康状態次第だ。どちらかが倒れても生活が成り立つよう、今は頑張って稼ぐ。「急いで何かを捨てて同居しなくても、老後に新婚生活を送るという手もあるよ」とふんわりお勧めしておこう。

 (連載コラム&漫画「期待しないでいいですか?」次回は来月中頃です)

KEYWORDS:

毎月14、15日頃連載コラムvsマンガ「期待しないでいいですか?」

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吉田 潮

よしだ うしお

コラムニスト

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。ライター兼絵描き。



法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』、『Live News it!』(ともにフジテレビ)のコメンテーターなどもたまに務める。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より『東京新聞』放送芸能欄のコラム「風向計」を連載中。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)、『くさらない イケメン図鑑』(河出書房新社)ほか多数。本書でも登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。



公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/



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